マンガ原作者 滝沢解について

 1970年代のマンガ業界にて、梶原一騎、小池一夫の両巨頭原作者に次ぐ3番手(級?)の位置に付けていたのが、この滝沢解(たきざわかい)だと思います。
 1990年代に「狂犬トロッキイ」、「女犯坊」、「聖徳太子」が再版、初単行本化されるなど、再評価の機運が高まったが、未だにその作品世界の全貌は殆ど明らかになっていないと考えます。不完全ですが、単行本リストを作成してみましたので、参考になれば幸いです。

 
★★ 滝沢解プロフィール ★★
 作家・マンガ原作者・戯曲家
・本名:南沢栄一郎
・生年:1933年(昭和8年)
・最終学歴:早稲田大学文学部演劇化卒
・2002年没

・マンガ原作デビュー作:
「高校さすらい派」芳谷圭児作画
少年サンデー(1963年、昭和38年)

参考文献 1979年版 劇画・マンガ家オール名鑑
 (徳間書店、Town Mook)

●● その作品世界を探る ●●

 梶原一騎が「スポーツもの」、「男の生き様」を描いた作家であると、比較的説明しやすい作品世界を作ってきたことを考えると(実際はそんな単純でもないけど)、滝沢解の作品群は幅広いバリエーションを持っているように見える。任侠、オカルト、暴力、コンピュータ、エロ、相撲・・・・・。だが、どの作品にも、この原作者らしい「良い意味での・不可解さ」が溢れている。その「不可解さ」は「キャラクターのあまりに突飛な行動」や「一般的な物語作法のルールから逸脱した物語展開」に起因するものと考えるが、その作品群が圧倒的なパワーを秘めている事だけは間違いない。単行本化されたものを通読すると、チグハグナ印象を持つ作品が多いが、雑誌連載時には、かなり人気があったものと推測する。何だかわからないが、とにもかくにも、雑誌の読者を引きずりこんでしまう、妙な説得力が有るのが「滝沢解作品」だと思う。
 1980年代の中頃から、徐々にマンガ原作の世界から身を引いているようだが、他の追随を許さないアナーキーな作品世界をもっと多くの人に知って欲しいです。
 残念ですが2002年、御逝去されました。

 

作品解読のためのキーワード


・立身出世、暴力社会(ウラ社会)で成功
・刹那的な感情による行動
・連載としての面白さ追求
・暴力描写
・反権力・体制
・アジア植民地主主義
・恐るべき子供
・宇宙進出
・コンピューター

 
単行本リスト(暫定版)初版の年/月は複数巻の場合、1巻のもの
作画担当 タイトル タイトル・ヨミ 巻数 出版社  シリーズ名 版型 初版
赤塚不二夫 狂犬トロッキー キョウケントロッキー 1 曙書房 新書
1 ぱる出版 PAL comics 四六 1993/7/1
クソババア クソババア 1 曙書房 文庫版
幕末珍犬組 バクマツチンケングミ 1 曙書房
池上遼一 モッブ モッブ 1 ホーム社 ホーム社漫画文庫 文庫版
1 B6
江波じょうじ 警察拳銃 ケイサツケンジュウ 4 双葉社 アクションコミックス 1975/3/1
片桐七郎 魔性の淫 マショウノイン 1 壱番館 COMIC PACK B6 1986/7/1
 かわぐちかいじ  唐獅子警察  カラジシケイサツ 4 竹書房 バンブーコミックスピカレスクシリーズ  B6 1984/8/1
3  芳文社 芳文社コミックス B6 1973
 猛者連ブギ  モサレンブギ 9 徳間書店  トクマ・コミックス B6 1984/4/1
7 大陸書房 Wellyコミックス B6 1991/10/1
 川崎三枝子   黒衣の女  コクイノオンナ 2  双葉社 アクションコミックス B6  1974/12
 姫  ヒメ 4  双葉社 アクションコミックス B6  1975/8
コスミックインターナショナル キュン!コミックス  B6
危険なパフォーマンス キケンナパフォーマンス 1 講談社 スコラKC  B6
 魔女料理  マジョリョウリ 1  徳間書店  トクマ・コミックス    B6  1985/5
1 コスミックインターナショナル キュン!コミックス B6
 極悪美女軍団まんじ 卍 ゴクアビジョグンダン マンジ 1  徳間書店  トクマ・コミックス     B6 1985/10/1
   悪  女  アクジョ 1  芳文社 芳文社コミックス B6  1986/5
  上海魔女  シャンハイマジョ 1  芳文社 芳文社コミックス B6  1985/12
 炎のクイーン  ホノオノクイーン 1  廣済堂  COMIC PACK B6  1979/7
 川本コオ  猛毒商売 モウドクショウバイ 5 廣済堂  廣済堂コミックス B6 1985/6/1
芸文社 B6
 神田たけ志 妖かし丸 アヤカシマル 1 双葉社 アルタ・コミックス B6 1982/11/1
木村えいじ 炎女 ホムラメ 1 リイド社 B6
小島剛夕  餓鬼の惑星  ガキノワクセイ 1 日本文芸社  ゴラクコミックス B6 1978/8/1
 愚れ者 グレモノ 1 コミック社 コミック1000 B6 1977/4/1
4 けいせい出版 A5 1987/8/1
斬奸状 ザンカンジョウ 1 日本文芸社 ゴラクコミックス B6  1977/3/1
1 けいせい出版
小森一也 怪物力士伝 カイブツリキシデン 4 徳間書店 トクマ・コミックス B6 1985/7/1
4 コスミックインターナショナル キュン!コミックス B6 1998/7/1
榊まさる 英雄・ヒーロー エイユウ・ヒーロー 1 コミック社 コミック1000 B6 1977/6/1
田中正仁 ベルベットゾーン ベルベットゾーン 1 双葉社 アクションコミックス B6 1985/3/1
メタルボーイ メタルボーイ 2 集英社 プレイボーイコミックス 新書 1983/9/1
谷村ひとし 殺鬼 GENOCIDER サッキ 2 徳間書店 間コミックス B6 1986/1/1
ながやす巧 故郷を撃て フルサトヲウテ 3 講談社 講談社コミックス 新書 1980/5/1
 西村つや子 地獄草紙 ジゴクソウシ 1 日本文芸社 ゴラクコミックス B6 1976/10/1
原田千代子 涙の白バラ・マリーアントワネット 1 講談社 シリーズコミック愛の世界史 1985/1/1
ふくしま政美 聖徳太子 ショウトクタイシ 1 太田出版 QJマンガ選書 A5 1999/1/1
女犯坊 ニョハンボウ 3 太田出版 QJマンガ選書 A5 1997/9/1
コミック社 コミック1000 B6 1977/4/1
3 八曜社
政岡としや 暴力湾 ボウリョクワン 3 竹書房 バンブーコミックス/ピカレスクシリーズ  B6 1985/3/1
東京三世社 三世コミックス B6 1975/9/1
芳谷圭児 男たちの神話 オトコタチノシンワ 3 双葉社 アクションコミックス B6 1975/5/1
スカイレディ スカイレディ 1 双葉社 アクションコミックス B6 1980/12/1
劇画マルクス ゲキガマルクス 1
高校さすらい派 コウコウサスライハ 1 曙出版 新書 1971/2/1
松森正 人魚海域 マーメイドゾーン ニンギョカイイキ 1 講談社 スコラKC B6 1985/1/1
森村たつお スーパー巨人 スーパーキョジン 5 秋田書店 少年チャンピオンコミックス 新書
クダイノカカク
「滝沢解」原作作品オススメの作品 その1
拳銃警察/DETECTIVE SPECIAL 
作画;江波じょうじ 双葉社アクションコミックス
 B6版・全4巻
初版発行時期
 1巻;1975/32巻;1975/9
3巻;1976/24巻;1976/6
初出;
双葉社漫画アクション
(時期などは未調査)
ストーリー
 主人公は、鬼検事の異名を持つ「南郷」と、ヒラ刑事「加生花/カフカ」。
彼らは自ら『神の代理人』と称し、『不正・悪』に果敢に戦いを挑む。
 不正を見逃しに出来ない、アウトサイダーコンビが「悪を撃つ」

       見所~ちょっとした解説


 早くも一巻で、2人ともそれぞれの職をクビになってしまい、その後は、「金でやとわれる秘密工作員」として、世界各地を舞台に彼ら独自の「行動原理」と「正義」で、大暴れします

 社会正義を振りかざして、悪を懲らしめる「勧善懲悪」的な作品と理解するには抵抗がある、滝沢解原作らしい難解さに満ちた作品。
 検事と刑事のコンビが不正・悪に立ち向かう、という構図が興味深い。検事・南郷は「中年」、刑事・加生花/カフカは「青年」であり、戦前=南郷、戦後=カフカ、と深読み出来ないことも無い。加生花/カフカは「変身」で知られる小説家「フランツ・カフカ」よりの命名か?

 「適度なオイロケシーン」もフンダンに盛り込まれており、好みの問題でしょうが、江波氏の描くグラマー女性は、評判が好かったように思います。失礼な言い方かもしれないが、江波氏の描く作品雰囲気は昭和30年代の終わりごろの貸本時代テイストが濃厚という気もします(イイ味です)。この江波氏の作風もあって、ニヒルさだけに落ち込まない良質のエンターテイメントに仕上がっていると思います。


 国際政治や国家主権などというものは、本来、話題にするだけでも、ある種の覚悟を必要とする「大事な話題」であり、かつ、「単純」でも「やさしい」ものでもない訳ですが、この「拳銃警察」は、そんなエンターテイメントとして成立しにくいような「重いテーマ」に「敢えて挑んでいる」ような印象さえ抱かせます。わざわざ、こんなテーマで、ハナシを作らなくてもいいじゃん!?っと突っ込みを入れたくなるくらいです。

 血に飢えた二人の男「南郷」と「カフカ」はとても魅力的なキャラクターに仕上がっていると思います。特攻隊の生き残り?と思えないこともない「南郷」とグラマー女性とのエッチなお楽しみシーンが多い「カフカ」が、時には衝突しつつも、協力し合って「不正」や「不合理」と戦い、何かを得、或いは失うこの作品、連載当時は、人気作であったと思います。


南郷の名セリフのいくつかを下に紹介


・まったく日本人って奴は・・・・・・なんでもかんでもすぐ忘れやがる!

・日本人は西洋人でもアジア人でもない!
         日本人には連帯感も正義感もない!あるものは、金 金 金だけだ

・カフカよ、きさまのような若僧は簡単に祖国を忘れられるからいい・・・・・


アクションコミックス
1~4巻表紙
色使いが派手?





「滝沢解」原作作品オススメの作品 その2
猛毒商売
作画;川本コオ
初出;
週刊漫画TIMES
芳文社発行 
昭和49年(1974)頃
(詳細不明)
単行本
①廣済堂コミックス(B6)
全5巻 廣済堂
初版発行時期
 1巻;1985/6、2巻;1985/7
3巻;1985/8、4巻;1985/9、
5巻;1985/10

----------------------

②芸文コミックス(B6)芸文社
3巻までの刊行
(昭和49~50年頃の発行と推測;詳細不明)


                 ストーリー

 「任侠・義兄弟3人」の話しとして、物語はスタートする。今は既に解散してしまった「組・暴力組織」の元組長(殆どボケ老人に近い)を「侠気」で面倒をみる「義兄弟3人」。が、途中から、ストーリーは大きく変わり、摩訶不思議な暴力劇画/マンガに変貌していく。悪徳・副検事「平林」と「恐るべき少年・リッキー」の物語に徐々に変化していく。

          見所~ちょっとした解説

  川本コオ氏の画風が生きた、異常とも言える複雑さに満ちた
      
 「アウトロー劇画」の傑作

この作品のヤフーオークション出品時の説明文などでは、
次のような意味のコトバが良く使われます。


  ・何が何だかさっぱり分からない作品
  ・メチャクチャなストーリー



 確かに難解というか、デタラメな感じもします。初めは、解散した組のボケかかった元組長を侠気で面倒みる義兄弟3人の話しだったのだが、日本制覇を目指す「副検事・平林」が登場するあたりから、複雑な物語展開になって行きます。裏切り、暴力、死闘、陰謀が繰り広げられ、確かに単行本表紙見返しにあるように凄まじい「アウトロー劇画」に仕上がっています。
いかにこの作品を読み解くか?作品理解の「切り口」を私なりに考えてみました。

かつての組長(恍惚老人)への義理を果たす男たちの任侠ドラマ
日本を支配下に置こうとする野心家検事のドラマ
恐るべき子供リッキーの成長物語
アウトローたちの友情と確執、裏切りを描いた人間ドラマ
裏社会の世界を描写した情報マンガ 

 気になるのは最終巻の印刷が不明瞭な部分が多いこと、原稿紛失か?ラストは無理矢理決着つけてたような気がしないでもないので、単行本化に際して加筆があった可能性もあると想像しています。

 登場人物の行動原理が、よく判らない、と言うより、物語構成上の「説明」が少ないので、登場人物の心理が不明(理解しにくい)。味方同士で、争ったかと思えば、結局助けたり。確かに、現実の派閥争い、暴力抗争なんてのも、こういう風にわかりずらいもので、すんなりした、「物語」なんてないのかもしれないけど。



廣済堂コミックス
1~5巻表紙
 最初に作成 2004年5月