ハクダイのカカク
Hakudai no Kakaku


大人になるとは?10代の生き様?
いわゆる青春モノの傑作を



ジロがゆく・真崎守
 真崎さんの作品は、ヤングコミック黄金期(1970年頃;少年画報社)のモノなどが、有名です。ですが、私個人としては、性表現がオトナシイ感じの(主人公が中学生だから当たり前だけど)、本作品が「真崎作品・一番のお気に入り」です。
 営林署に勤める父の転勤で、いわゆる過疎地の山村で暮らすことになった中学生ジロの日常を描いた作品です。閉鎖的な過疎地の生活と、いわゆる現代的・都会的なジロとのあまりにも大きな文化的・社会的な差異が生み出すドラマを中心に、豊かな自然を背景に少年ジロが逞しく成長して行く様が、鮮やかに描かれます。

 情報過多の平成17(2005年)年の今、このマンガ/劇画を読むと、情報が有ればあるほど、真実・真理からはホド遠くなってしまうのか?などということを考えてしまいます。
彼らは知っていた・・・・我々は知らない・・・・

・画像は講談社漫画文庫
上中下の全3巻(1976〜1977)
A6版

・初出:月刊別冊少年マガジン
(講談社:1970〜1971)

息をつめて走りぬけよう・ほんまりう
 

 こんなにも繊細な作品が、描かれていいのだろうか?19歳くらいで、この作品を読んだ自分は、マジ、凄い衝撃を受けました。冴えない感じの、これといった取り柄も無い高校生が、友情育み、挫折を経て・・・・・ああ、ダメだダメだ。そんなアリキタリの形容では、この作品の魅力は伝わらない。自信を持てと言われても、そんなに簡単ではない・・・とかく、この世は図々しい奴・厚顔無恥な奴の天下なのかもかもしれない・・・・

 心ならずも、殺人を起こしてしまう主人公だが、前向きなラストには、感動・驚嘆してしまう。あっ、ドラマ的なドラマは最小限ですよ。

 この作品を素晴らしいと感じる人は多かったようで、単発(1時間?)のテレビドラマ(1984年頃・タイトルは違ったようです)になっています。偶然途中から見始めたテレビドラマがそれで、驚いた記憶があります。原作との違いなどは、忘れてしまっているし、大体にして、後半部分しか見ていないので、是非、通しで見たいものです(そんなこんなで、20年経ってますが)。

・画像はブロンズ社版
1981年(B6版変形)
他に短編2編を収録

・息をつめて・・・の初出は
ヤングコミック
(少年画報社、1979年)

少年時代・藤子不二雄A


 原作は柏原兵三の「長い道」で、原作も読んだのだけれど、両者の詳しい違いなどについては、忘れてしまいました。とても面白い小説だったということだけは覚えていますが・・・・・。
 この「少年時代」は、太平洋戦争末期、田舎に疎開した「主人公・シンイチ」と「地元の優等生・タケシ」の交流を描いた作品という読み方が一般的だと思います。ですが、「少年同士の葛藤と駆け引き〜政治的な人間模様を描いた作品」と私などは理解しています。
 原作の小説では、主人公シンイチ自身の感動に素直に共感できたのですが、マンガでは、どうしてもタケシの行動の方に興味が行ってしまい、シンイチの喜び・恐怖には、あまり共感できませんでした。
 
 個人的には、この作品、藤子不二雄A先生の「劇画」作品の最高傑作だと思っています。藤子不二雄A先生は、人間の支配欲をテーマにした作品が多い(*1)と常々思っているのですが、その「支配欲」を少年シンイチの目を通して正攻法で描いたのが、この少年時代だと思います。
ちなみに映画は未見です。原作の小説(文庫本)は処分してしまった(10年以上前)・・・再入手したい一冊です。

注*1;支配欲をテーマにした作品とは、ブラック商会変奇郎や、黒ベエなどでの、ヒトラーもどきや軍隊ゴッコ狂が登場する作品を指します。佐藤まさあきの作品世界に通ずるものがあると考えている。


・画像は中央公論社
愛蔵版(1989)・A5版

・初出
週刊少年マガジン
(講談社.1978〜1979)

モサ・ちばてつや


 父親は出稼ぎに行っている、と母親には、教えられている兄弟。中学生の兄・良は、牛乳配達をして家計を助けているが、貧困から、次第に悪事に手を染めていく。父親が、スリ犯として刑務所にいることを知った良は・・・・・。

 「餓鬼」とこの「モサ」は、ちばてつや作品中、主人公が、悪人〜犯罪者
であるという点で、際立った作品です。中学1年生の時(1977年頃)に、このマンガを読んだのですが、スリのテクニックの面白さなどもあって、興味深く読みました。元になるような小説や映画があるのかもしれませんが、餓鬼と並んで、ダーク・ちばてつや作品の双璧だと思います。
 久しぶりに本棚から出して眺めてみたのですが、パラパラっとめくるだけで、涙ぐんでしましました。誰だって犯罪者になどなりたくない・・・・・登場する多くのスリたちの「人間らしい・確かな造形」には、ちばマンガの持つ優しさに満ちています。最近の世相の混乱を見ていると、「豊か」になるとは、どういうことなのか?考えこまざるを得ません。

・画像はちばてつや漫画文庫
講談社(1977)・A6版
傑作短編集D

青空ごっつん・青柳裕介


 分校の小学校を卒業し「町の中学校」に、通い始めた「正太」と「よしやん」。正太は地主の子で、よしやんは小作の子だが、二人の力関係は、よしやんの方が上。幼馴染である、ガキ大将タイプの「よしやん」と、おとなしくて気弱なタイプの「正太」が、「そこそこのドラマ・?苦笑」を通じて成長していく姿を、詩情溢れる見事な筆致で描ききった傑作です。

 「土佐の一本釣り」や「はるちゃん」で良く知られた青柳さんですが、(残念なことに故人となられています)個人的には、「「鬼やん」と、この「青空ごっつん」のような、少年キング連載の作品の方が好きです。中学生が主人公であるだけに、曖昧な決着も有り?みたいで、ウソっぽくない、リアルなストーリーが、共感できます。大人を主人公にしてしまうと、物語上、なんらかの決着めいたものを付けないといけないように思います(苦笑)
 気弱な正太を語り部に、正太とよしやん二人の行動を描くと言う作劇スタイルが、成功していて、多感な少年期の心情に迫っています。
 うろ覚えですが、結構のんびりしたペースでの連載だったように思います。青柳さん自身が気に入っていた作品ではなかろうか?勝手にそう思っています(苦笑)。
 「おったまじゃくし・てんとう虫コミックス」を入手したいです。

・画像はヒットコミックス
少年画報社(1980年)・新書版
前後編(全2巻)
・初出は週刊少年キング
(少年画報社)
ハクダイのカカク